その唇は紅き血に濡れて

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  日常のすぐそばに潜む、非日常   

はやっと人心地ついたらしく、大きく息を吐いて掛けていた眼鏡を外した。

「……お前吸血鬼なのかよ、?」

そう声をかけた刹那、はバッとこっちを見上げた。
厚いガラス越しではなく、直に見交わす紫の瞳に飲み込まれそうになる自分に気付きながらも俺はその瞳に浮ぶ感情を見定めようとする。

「………亜久津…仁……」

ポツリと空中に零された言葉は、俺の名前。

「へぇ、知ってんのか、俺の名前」

正直言って、意外だった。

「そりゃ、まぁ。……つーか、見た?」

見た、というのはさっきのあの光景のことだろうな。

「おぅ、まぁな」

例え忘れろと言われたって、なかなかできるモンじゃねぇだろ。

「…………どっから、どこまで?」

「お前が入って来てから、…最後まで」

ハァ、とは溜息を一つ落してから梯子を使って俺がいる給水タンクまで登ってきた。
強い風にセミロングの黒髪を遊ばせながら、は俺の前に座り込む。

「もしさ、あたしがそうだって言ったらアンタどうすんの?」

その口調は以前に教室で自己紹介していた時の気弱そうなものと違い、
少しだけ気怠げで、それでいて鋭かった。

「あぁ?……どういう意味だ」

「だってさ、もしあたしが吸血鬼なら」

………………
話す口調に揺ぎはないが……。
何故かその様子に俺は違和感を覚えた。

「亜久津も仲間にするか、殺さなきゃいけなっ………!!?」

いきなりはビクリと身体を揺らして、膝を付いた。

「……っおい!?」

思わずに手をのばしたが、その手は音を立てて振り払われた。

「ダ…メッ……あく、つ…さわんないでっ……」

必死にその両手で自らを抑えるように抱き締めているを見ているうちに、俺はこう口走っていた。

「………俺の血、吸えよ、。」



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