「ねぇっ・・・・・梁太郎はホントに私のこと好きなの!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・なんで何も言ってくれないわけ!?・・・・っもう、いい。別れるっっ!!」
          
              パアンッッ

「・・・・・・・痛ッ・・・・。」

あいつが嵌めていた指輪が、俺の頬に一筋の傷を作った。血がわずかに滲み出る。
俺はただそこに突っ立って、去っていくあいつを追いかけることも、声をかけることさえもせずに、後姿を眺めていることしかできなかった。


                         
酔いどれラヴァース


「お兄さん、大丈夫ー?痛そうだけど」
ふっと気がつくと、目の前には1人の女が立っていた。
歳は・・・・・俺よりも年上なんだろう。たぶん。
17、18と言っても良さそうな童顔だが、シュッと伸びた姿勢や、身にまとう雰囲気が明らかに成人した大人のそれと分かる。
まっすぐにのびた髪を簡単に纏めている。その様子からみて恐らく何かの飲み会でもあったんだろうと察せられた。
その証拠に、妙に赤いその顔からも、吐き出される吐息からも、明らかに酔っ払いと分かった。
手にしているコンビニ袋には、軽く10本を越える缶ビールや缶チューハイが覗いている。
「手当てしたげよっか?ウチ、近所だから。その代わり・・・・・・ヤケ酒付き合え!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、いいぜ。」
何となく家に帰る気がしなかったのも理由の1つだったし、明日が日曜だってのもあったと思う。
普段の俺ならまず間違いなく酔っ払いの誘いになんか乗らない。
そのはずなのに、俺の口からはYESの答えが零れ落ちていた。




ちゅ・・・・くちゅ、ぴちゃ・・・・・・
柔らかい感触と、室内に響く水音に、俺は閉じていた瞼を開いた。
「・・・・・・・・・・・おい」
「んーーーー?」
「手当て、するんじゃなかったのか」
「ん、してんじゃん。アルコール消毒v」
クスクスと楽しそうに女―と名乗った―は笑った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫だってー。ドラマとか映画とかでホラ、あるじゃん怪我にお酒吹きかけるの。それとおなじ、おなじv」
「あのなぁ・・・・・・。」
「ん、黙って。垂れちゃう」
そう言ってはチロリと赤い舌を出すと、俺の傷口を舐めた。

「・・・・・・っ・・・・・」
「あ、染みたー?ごめんね。・・・・・っと、これでよし。」
は俺の恨みがましい視線を無視すると、大きめの絆創膏を取り出し、貼り付けた。
俺は冷蔵庫に向かうの後姿に向かって、礼を言う。

「・・・・・・・・・どーも。」
「いいっていいって。さてっ、早速ヤケ酒付き合ってもらいますか!!」
振り向いたは冷蔵庫から缶ビールを掲げて、ニヤリと笑っていた。






「そっかー・・・・。彼女にフラれちゃったかー・・・。」
「・・・・・・・・・・まぁ。」
「そっか、そっか。だから、あんな顔してたのか」
「あんな、顔?」
「んー。なんか、迷子みたいな顔。好きだったんだねぇ、彼女のこと。」
ふむふむと頷きながら、はまた一口チューハイをあおる。

まい、ご・・・・・・・?俺が・・・・・あいつを・・・・・・・・・・・。
俺は、が座っているベッドにもたれかかりながら相伴に預かっていた。

「私とはちょっと逆かなー。私、どっちかっていうとフッた方だから」
なんでも、今日は仕事帰りに再会した数人の友人と飲みに行ったのだという。
ご機嫌で二次会に行く途中で、なんと付き合いだして1ヶ月の彼氏がラブホテルから男の方を抱いて出てきたのを見てしまったらしい。

「・・・・・・・・マジかよ・・・・・・・(汗)」
「うん、マジ。カモフラージュに使われてたのかと思うとなんか腹立ってさー!派手に殴ってやった!
だから、フッた、って言うのとはちょっと違うかもね。んでね、その後もう一気に愚痴&ヤケ酒大会になっちゃってさ。
帰ってからもまだムカムカしたから、もっかい飲みなおそうとお酒買いに行ったら、君見つけたんだよねー。あっ、てか君、名前は?」
・・・・・・・・・・・・・さすが酔っ払い。
会話に脈絡というものが全くねぇな。
「・・・・・梁太郎。土浦梁太郎だ。」
「そっかー・・・・じゃ、梁ちゃん!!」
「はァ!?(汗)、りょ、梁ちゃん!?」
「うん。ハイ、決定ww 梁ちゃんもほらっ飲め!」

は何がそんなに楽しいのか、ベッドに腰掛けて足をパタパタと動かしている。
テーブルの上には、が開けただけでも2本の空き缶が転がっていた。
俺もたまに(強制的に)親父の付き合いで飲むことはあるが、は2次会までこなしていると言う。
よほどザルなんだろうな。いや、もうアレはワクだ、ワク。
普通の奴ならまず間違いなくぶっ倒れてるトコを、こんなにもハイテンションで飲み続けているのだから。



「なぁ、。」
「んにー?どったの、梁ちゃん。」
なんの気も無しに、ふと思いついた疑問を口にだした。
「そいつの・・・・・・彼氏のこと、お前はどう思ってたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

さっきまで必要以上に笑っていたの声がピタリとやんだ。
もしや(もしかしなくとも)地雷を踏んでしまったかとを見上げる。
「・・・・・・・・・・・っ。」
俺は何故かどきり、と心臓が大きく音を立てたのを自覚した。
は急に真剣な顔になって、手にしていたチューハイの缶をくるくると揺らしている。

「んとね、えっとさ。元彼とはね、友達の紹介で知り合ったんだ。
明るくって、なんか話してると楽しくて。告ってきたのはあっちなんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「そりゃね、おかしいとは思ってたよ?大の男が1ヶ月付き合ってキスとデートだけだもん。
あいつはなんか照れ屋なとこあったから、きっとそうなんだろうって、自分をごまかしてた。優しかったし、ほんといい奴だったから。」
あえて俺は何も言わず、チューハイを呷った。
ポツポツと話すの言葉がまとまるのを待つ。

「それでちょっとばかし不安になってた矢先に、今日・・・・・・いや、もう昨日か。
昨日、あーいうシーン見ちゃったでしょ?もうなんかさ、騙されたとか、悲しいとか、なんかもうゴッチャになっちゃって。
気がついたらバシーッって。アザ出来るまで殴っちゃったよ」
「アザ出来るまで?」
「うん、出来るまで。『慰謝料がわりだよ!』って捨て台詞も言っちゃった。」
「そりゃまた、大層な悪役の台詞だな」

まったく、俺は何をしているんだ?
彼女に振られて、酔っ払いのの家に転がり込んで、酒飲んで。
明らかに高校生がやることじゃねぇよな、普通。
だがー・・・・・、認めたくもないが、と過ごす時間が楽しいのは事実だった。

「かもねー。でもさ、なーんかまだひっかるんだよね。なんでかな?スッキリしたはずなのに」
「そりゃ、まだがそいつのこと好きだからなんじゃねぇのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
今度は、が俺を見下ろす番だった。
そのまま、目をそらさずに俺は言葉を繰り返す。

「お前は、まだその元彼のことが好きなんだよ。好きな相手が自分のこと利用してたって分かってても。
まだきちんと自分の心の整理がついてないだけなんだろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

たっぷり2分は沈黙が落ちただろうか。
は無言のまま、ずるりとベッドを滑り落ちた。
「っおい、?」
「・・・・・・・・・・・・なんでかな・・・・」
「ん?」
体育座りしたひざには顔を埋めて、小声でつぶやいた。
思わず俺は問い返す。

「なーんで、初対面の梁ちゃんにここまで看破されちゃうかなー。私ってそんなに分かりやすい?」
「・・・・・・・さぁな。似たもの同士だからじゃないのか?俺たち」

俺は、アイツを、・・・・元彼女を、ちゃんと異性として好きだった。
ただ、俺の接し方が良くなかっただけで、ぎくしゃくさせてしまった。
・・・・・・自分の気持ちを伝えられなかった俺と、自分の気持ちに気づけなかった
ほら、やっぱり似たもの同士だろ?

「ははっ、そっか、似たもの同士か・・・・・・・・・あれっ?」
そう言うなりの瞳からポロポロと涙がこぼれた。
「ちょっ、大丈夫か!?」
「ん・・・、あれ。ど、しよう梁ちゃん。止っ・・・・止まんなっ・・・・・」
とりあえず際限なくあふれる涙を、ごしごしと俺のシャツの袖でぬぐう。
「・・・・・・・・・・・・止めんなよ。泣け、思いっきり。そばにいてやるから。1人で泣かせてなんか、やんねぇから。」
「・・・・・・・・梁、ちゃ・・・」
「うん?なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・服、汚しちゃうけど。ごめんね」
「あぁ、いいぜ?・・・・・・・・・・・・・ほら。」
それを聞いたは、安心したように顔をくしゃくしゃにして、本格的に俺の胸で泣き始めた。
シャツがの涙によって、いくつもの染みを作ってゆく。
俺はずっとが泣き疲れて眠ってしまうまでずっと、その髪を梳くようにして撫でていた。
心の中で、に感謝の言葉をかけながら、何かに対して祈った。





「なんか・・・・・・梁ちゃんって、ちょっと弟に似てる」
「え?(・・・・弟かよ)」
うとうととしていたが、急にそんなことを言い出した。
「まっすぐなトコとか、優しいトコとか。なんか・・・・・・・・んに、似て・・・る・・・・」
「・・・・・・・・・・・おい、?」
問い返しても、すでにはすぅすぅと寝息を立てていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺も酔いが回ってきたので、取りあえず俺とをすっぽりと毛布でくるみ、眠りについた。








ちなみに。
の今度の仕事先が星奏学院の音楽教師だと知るのは週明けの1時間目のことで。
の本名が「月森」であり、月森の実の姉だということを知ったのもこの時だった。

「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇッッッ!!」 



                                                                                                            

                                                               

>>後書きと書いて言い訳と読む
この作品は、初期の作品を手直ししたものです。
今現在煮詰め中の作品主人公の原型ですかね。
当時は成人の日が近くって、授業中に「あ、チューハイ飲みたいなー」とか考えてたら(未成年)
「酔っ払い女と土浦絡ませてみたいなぁ」と急に思い立ち、その場でがりがりとルーズリーフに書き殴ってました。
私の中では土浦は高3ぐらいのつもりで書いてます。主人公は・・・・25,6ぐらいですかね。
しっかし、これどういうジャンル分けをしたらいいのか、私自身考え付きません。ギャグか、ギャグでいいのか。
恋愛甘甘モノのつもりだったんだけどなぁ・・・・・・・。
誰か「こんなジャンルで充分だろ」的なご指導下さ いorz
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