その唇は紅き血に濡れて

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  その関係は血の結びつきよりも濃く、強く  

なんで今頃になって跡部さんが「許婚」という爆弾発言を落としたのか、大体は想像がつく。


………が最近、氷帝生の中でも特に目立つ存在になってきたからだ。
が俺と跡部さんの従姉妹だからというのもあるし、自身の容姿が他の女どもより水際だったものだというのがというのが一番の理由だろう。
実際、が告白されている場面は何度となく俺も目撃してきたが、どうやらそれが跡部さんを刺激したらしい。

それと、『俺もちゃん狙ってみよかな〜。なぁ、えぇと思わへん景ちゃん?俺とちゃん、美男美女でお似合いやん』
等と部室でほざいていた忍足先輩の発言がとどめを刺したようだ。

『アーン、お似合いだァ?ふざけんじゃねぇよ忍足。よっく覚えとけ、はこの俺様の許婚だ。ハッ、てめぇなんざお呼びじゃねぇんだよ!』
と、激しく忍足先輩に殴る蹴るの暴行を加えつつ(権力と財力で揉み消されたようだ)
発せられた言葉は、1時間もしない間に学園中の人間が知る所となった。


『……こういう時、なんで引き合いに出された人間が被害受けなきゃなんないワケ………?』


ぐったりとしてはそう何度も俺に愚痴っていた気がする。
確かには毎日毎日呼出されるは問詰められるは無言電話は毎晩定時にかかってくるわと、数上げればキリが無い程の被害を受けていた。


まぁ、その程度に傷付くような性格でもないので、面倒臭くなったというのが大きかったのだろう、2週間後にはある決心をした。


『若、あたし失踪する事に決めたから。準備手伝って?』
『………………………はぁ?』















それからのの行動は素早かった。
このようなの突拍子もない言動に慣れている祖父に連絡を取り、瞬く間に新しく転入する学校、転居先、資金、事後の対応を打合わせていく。
転入先を山吹に決めたのは、なんでも祖父と山吹の教師伴先生は旧知の仲であった為と、比較的俺が通いやすい場所である為らしい。



1週間後、
『景吾のせいで疲れたのでしばらく家を出ます。しばらくは家には戻りませんが、どうかご心配なく。この機会に全て清算して参ります』
という置手紙を残し、邸から姿を消した。















もちろん、この家出計画には若干、不安な点があった。

それは、の吸血発作のことだ。
俺達“久月の一族”の血は、たち吸血鬼の吸血衝動を抑制する働きがある。
定期的に血を飲まないと彼等の身体は日々衰弱してしまう為、その周期を延ばす俺達の血は必要不可欠だ。

しかし、の家出騒ぎでしばらくは俺も自由に動けないのは目に見えていた。


『……………まぁ、なんとかなるでしょ。いざとなれば自分の血飲むなり、誰かの血吸うなり。若が動けるようになるまで耐えてみる。』
『…………そうか。』


内心、複雑だった。
を例え一時的であろうと跡部さんの手が届かない場所へと隠すことが出来るのに。


が俺以外の誰かの血を飲むことは仕方がないと分っている。
事実、今までにもほんの何回かは他人の血を吸った。
なのに―――――……………………





チラリと頭に思い浮かぶのは、校門で会った白髪の男の姿。
亜久津 仁、あいつは確かにに血を与えた。そして、その記憶を失わずにいる。
その意味に、心の中で何かが音をたてた。







…………………………………渡さない。いつの間にか寝入っていたを抱き寄せ、心の中で呟く。



……………………………………誰にも、渡さない。は………俺だけのものだ。


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