その唇は紅き血に濡れて

モドル | ススム | モクジ

  こんなにも甘いのは、花の悪戯か、君の香りか  

精市はあたしや景吾と同じ“夜魔の一族”だ。
若や景吾と違ってあたしと血は繋がってはないけれど。
それに……精市には少し特殊な点がある。
精市には月代がいない。
あたしには若がいて、景吾には崇弘君がいるのに、
精市に適合する“久月の一族”は1人として存在しなかった。
少しでも生き延びようする吸血鬼の本能や精市の意思をも無視して、
精市の身体は必要不可欠である筈の血を拒んだ。
かと言って人間の血だけを受け入れた訳ではなく、
例え口にしてもほとんどはすぐに吐き出してしまう。
万が一飲み込めた所でだいたいは体調を崩すか、
寝込んでしまうかのどちらか2つに1つだった。



確かあたしと精市が出会ったのは…中1の春だったと思う。
あたしの特殊能力の1つである治癒能力を精市の体質改善に役立てる為に。
あたしの能力は別に血を使わなくても効果は充分にあるけれども、
最も精市にとっていい方法は、あたしの血を吸うことだった。



あたし達の吸血発作や能力が発現するのは―――まぁあたしを含めてかなりの―――
個人差はあるが、だいたい10歳ぐらいから。
能力が発現してからあたしに会うまでの3年間、
精市は自分の能力をフルに使って生抜いて来た。
血の代用として…………花の精気を、その身体に取込んで。



精市の特殊能力の1つは、植物を自分の意のままに操ること。
敵を攻撃することも、己の盾にすることも、なんでも出来る。
―――…その生命を貰い受けることさえも。











>>後書きという名の言い訳
ようするに幸村は「なりそこないの吸血鬼」のような存在なんです。
(あまり気持ちのいい表現ではありませんが)ゾンビが物を食べても
それを消化する機関がすでに死滅してしまっているように、
幸村には血を受け付ける力が他の吸血鬼より極端に低すぎるんですね。
それでも皮肉なことに、幸村や主人公達は血がないと生きていけない、
そういう運命に敢然と立ち向かう幸村が描きたくてたまりませんでした。
ちなみになんで能力の対象が植物かというと、20.5で
幸村の趣味がガーデニングだったからです(ぇ)
次回は主人公視点から打って変わって幸村視点です。
どうか楽しみにお待ちください。
モドル | ススム | モクジ

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system