その唇は紅き血に濡れて

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  こんなにも甘いのは、花の悪戯か、君の香りか    

「……………あぁ、。来てくれたんだ」

そう言って精市は病室へ入って来たあたしに笑いかけた。
精市からはいつも、ふわりと甘い花の香がする。

「ごめんね、来るの遅れて。引越しとかでちょっとバタバタしてたから」


道中買ってきた花束を渡すと、精市の顔が綻んだ。


「バラだね。……………綺麗だ、ありがとう。」
「少しでも多い方がいいと思って。補給するには」
「フフ、確かにね。でも、今はいいや。せっかくが来てくれたんだから」


事情を知らない者が聞けば何か微かに違和感を覚えるだろう会話を交しながら、あたしは精市が花瓶に渡したバラを
生けるのをぼんやりと眺め、温室育ちではなく、生命力が強いものを選んだことに満足した。
少し沈みかけた太陽の光と全く同色の紅い花はとても良く映えている。


「昨日、跡部がここに来たよ。が来たかって」
「それで?精市はなんて答えたの?」
「“昨日は”来てないって。………今日がここに来るって、馬鹿正直に俺が跡部に教えてやる義理はないからね。」
「………………ありがと」


あたしは羽織っていたカーディガンを脱いでベッドに腰掛け、精市によりかかった。


「……………………貧血にならない程度には、するよ」
「あたしのせいで遅れたんだから、加減なんかしなくていいよ?――…大丈夫、昨日若にたっぷりもらったから。」
「―――――………そう。」
「………………っっ!……は…ぁ………」



急に首筋に噛付かれ、あたしは小さく声を漏らした。

甘い痛みと共に精市の喉がゆるやかに何度も動く。


―――――――――――――――あたしの血を、飲むために。





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